アウトローズ・クエスト


 荒涼とした丘の上で、私はただ祈っていた。
 守るものも愛するものも、すべて失ってしまったというのに、ただ祈っていた。
 ただ、執着だけがこの血まみれの体を生かしているように思える。
 死んでしまうのは酷く怖い――いや、消えてしまうことが酷く恐ろしく思える。今まで連綿と繋いできた命という名のバトンを、自分の代で終わらせてしまうということが怖かった。恐ろしかった。厭だった。
 ざり。と、土を踏む音が間近に聞こえる。けれど地に伏した私はそちらをみる気力さえ持ち合わせていない。
 このまま消えてしまうのだ何もかも終わってそして眠りにつくのだ永遠に目覚めない眠りへ――何も恐ろしくない。
 薄れ行く意識の中で、自分に必死に言い聞かせる。もう楽になれると繰り返し繰り返し何度も何度も言い聞かせる。
 自然の摂理に従うまま、この体は滅びていくのだ。

「あなたが、それを運命だというなら。」

 声が聞こえた。聞きなれた声だった。そこから声の主まで想像できる。

「私は、敢えてその自然の摂理とやらに逆らおうと思う。」

 初めて聞いたような、やさしい声だった。その言葉が、自分自身に言い聞かせているのか、私自身に言っているのかは定かではない。それほど、声の主は熱にうかされたようにぶつぶつと不明瞭な言葉をつむぎ続けていた。

「もうすでに、私たちは逆らっているだろう。いまさら滅びに逆らったところで、何が違う?神すら作り出すような世界がたとえ終わったとしても私はあなたを生かそう。あなたさえいればいいのだあなたさえ」

 私は、もうやめて欲しいと思った。もう十分傷ついたから、眠らせて欲しかった。永遠に。

「眠ることは自由だよ。でも次に起きた時あなたは生きているだろう。私は、どうかわからないけれど、生きていればいいと思う。」
br> ―孤独は拷問だよ、せんせい。

 そして、今度こそ意識を手放した。