生まれ変わっても君を呼ぶから 03


 川の流れに翻弄され続けるダンボールの中で、兄弟はヘリに手をかけて必死に岸を掴もうとしていた。
 ぼくはダンボールがひっくり返ったりしないように、反対側にしっかり座り込んで、真っ白な毛並みの兄弟を見上げていた。
 不意に尻尾が水に浸かる。ぼくは怖くなった。このまま何もできず、ただ沈むんじゃないかって。

「飛び移れるかもしれない…!」

「危ないで、もし落ちたら…!」

 兄弟は前だけを見ている。ぼくとは大違いだ。前だけをみて、生きることだけを考えている。
 川岸は遠くなったり近くなったり、ぼくらに意地悪をしているみたいにゆれ続ける。
 川辺で散歩している人たちが見える…が、ぼくたちが見えると、目をそらした。
 ゴミか何かだと、思ってるのかもしれないし、ゴミか何かだと、思おうとしているのかもしれない。

 それでも。

「たすけて、たすけて!」

 ぼくはにゃあにゃあと声をあげた。

「むだだよ。」

 ぴしゃりと兄弟がそれを制止する。そう、まだ子猫の姿のぼくらの声は、人間には届かない。もう少し大きくなったら、人間の形をとることができる。そうなるまで、人間とは話せない。それでも。

「なんで、助けてくれへんの…ぼくら生きてるんやで?」

「…自力で助かるしかねーんだよ!」

 兄弟がいっそう大きくヘリから手を伸ばす。
 ダンボールが風に煽られ大きくゆれた。
 兄弟が、ふりおとされかけながら必死にしがみついているから、僕は助けようと立ち上がった。

「バカ、来るな!お前まで落ちるだろ!」

「せやけどっ…」

 兄弟は、僕がその手を掴む前に、壁を蹴ってジャンプした。
 しなやかな体つきで、放物線を描いて飛ぶ体。

 兄弟の体が、見えなくなる。
 きっと、川に沈んでしまったんだ。

「おれは大丈夫だから!お前もちゃんと生き延びろ!絶対また、会うんだからな!」

 兄弟の声がだんだん聞こえなくなっていく。
 段ボールから身を乗りだして探しても、兄弟の姿は見つからない。
 僕だけが、流れていく。

 僕は、脱力して座り込んだ。

 そして、力の限り泣き叫んだ。
 夜がきて、泣きつかれて眠ってしまうまで。
 眠ってしまおう。きっと眠ってるうちに死ねるんだから。

 もう生きていく気力すらない。僕は一人では何も出来ない。兄弟を助けることも出来なかったんだ。ぼくは兄弟を見殺しにした。

 …僕はこの世界に、たった一人になってしまった。

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