生まれ変わっても君を呼ぶから 02

 僕らを包む壁という壁が、変色し、だんだんとその色を濃くしていく。水が染み出しているのだ。このままでは、段ボールごと僕らは沈んでしまう。僕は絶望してうめいた。
 それなりに段ボールに防水性があったって、たかが紙。陸地にたどり着くまでこの箱舟が保つとも思えないし、そもそも本当に陸地にたどりつくかもわからない。

「なにやってんだよ、早く蓋あけなきゃ」

 兄弟が背伸びをして、ばりばりと天井を引っかいた。子猫のつめはもろい。そのつめが折れても兄弟は天井を引っかき続ける。
 それにつられて僕も、立ち上がって天井につめを立てた。
 天井部分はまだ濡れていない。つめが折れてしまいそうだ。僕はへたりこんで泣き声をあげた。

「つめが折れてまう…」

「つめが折れるのと死ぬのと、どっちがいいわけ?」

 兄弟がいらいらした様子で僕をにらみつけた。そうだ、たとえつめがきれいでも、死んでしまえば意味がないのだ。自分を奮い立たせ、もう一度立ち上がる。

「それは…うわっ」

 二人が片側に寄った瞬間、段ボールの箱舟のバランスが崩れさかさまになった。
 つまり、今まで天井だった場所が床に。床だった場所が天井になった。
 浸水のスピードは上がるばかり。兄弟は躍起になって、天井をかきむしる。
 蓋ほど底は厳重に封はされていなかったのだろう。それに浸水の影響で段ボールはもろくなっていた。小さな穴が開いて、その向こうに太陽が見える。
 そこで僕ら二人は初めて太陽というものを見たし、今が昼間だということを知った。
 兄弟の手は止まらない。ばりばりといっそう乱暴に天井を引き裂いて、その段ボールの蓋を開いた。

「どう、するの」
 遥か彼方に見える岸を、兄弟がにらみつけている。
 その震える足で、僕の兄弟はふちをつかんで立ち上がった。

「飛び移るしか…ないじゃん。おまえ、こっち寄るなよ。今ひっくり返ったら終わりだからな」

 勇敢な兄弟の、声も震えている。チャンスが一度きりしかないことは、僕ら二人はよくわかっていた。風も強くなってきたし、波も高くなっている。
 神様や運命というものは、僕らに味方する気は毛頭ないみたいだ。

 チャンスは一度しかない。つまり、僕たち二人、どちらかしか岸に飛び移れないのだ。
 僕は…兄弟に生きて欲しいな、と思った。




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